サタディレヴュー #339 2. 1316

キャッシュレス社会

 

 経済の話はどうも良くわからない。

 人は誰でも社会の中で何らかの経済活動をして、生きているのだから、経済の話というものはもっと解り易いものである筈だ、と思えるのだが、実際はそうではない。

 かってある人に“(大学での)ご専門は何ですか”と聞いたら“俗に言う役に立たない経済学部というヤツですよ”という答えが返ってきた。

 官僚を除けば大多数の大卒者に課せられる業務において、大学で学んだ知識そのものが“役にたっている”とは思えないから、仮に“経済学”が大して役に立っていないにしても、そのことが経済学部出身者にとって、不名誉な事だという訳ではないだろう。 

 ただその“役に立たない経済学部”という言葉の中にその言葉の直接的な意味とは別のニュアンスがありそうな気がするのだ。

 つまり、ある種の経済問題に関して、経済学の知識がまるでない人間よりも、多少なりともそれを学んだ人の方が、少しは“解る範囲”が広い、と実感が持てているように思えないということだ。

 例えばFRBが金利を上げたとか、下げたとかの発表をするとき新聞は一面トップで、報道する。

 金利を上げたり、下げたりすることで国や世界の経済をコントロールしているかのような認識でこれこれの効果を目指すとか、確信有り気に語るFRB議長を“金融の魔術師”などと持ち上げで、ヨイショしているような記事を私たちは何度も読まされて来ている。

 しかし、狼少年の話と同じで、FRBや日銀の首脳の話を何度も聞かされてくると、かれらが、世界や日本の経済をコントロールする能力があるかのように語られている事に対して、疑問が湧いてこないだろうか。 

 かれらには、世界や日本の経済をコントロールする能力なんかまるでないのに、それがあるかのように思わせながら、自分たちの銀行のために単に金利を上げたり下げたりしているだけではないのか。要するに私たちは騙されているだけではないのかということだ。

 企業の側からすれば不景気なときにいくら金利を安くしますよと言われても、せっかく安い利息でカネが借りられるのだから積極的に設備投資をしようとか、増産して在庫を積み増ししようなどという気にならないのは当然であろう。

 ある経済学者は次のように言う。

“マイナス金利を導入した国々(日本、EU,デンマーク、スイス、スエーデン)のGDPの合計は世界のGDP5分の1にあたる。そしてマイナス金利の導入傾向が世界に広がることになる。マイナス金利を導入すると経済が回復すると考えられているが、日本もヨーロッパも経済は悪化し続けている。”

この問題に関連して、金融緩和策を生み出した、経済学者リチャード・ワーナー氏は次のように説明する。

 “スイスの場合、マイナス金利によって銀行のビジネスコストが増加した。そのため銀行はそのコストを顧客に負担してもらう事にした。

 既に預金の利子はゼロ状態だから、銀行は貸出利率を上げる事にした。つまり、金利がマイナスになる。ということは貸し出し利率が上がるということだ。

 このようなことが分かっているのなら、何故中央銀行は金利を下げるのではなく、上げないのだろうか。

 金利が上がると貸出金利も下がるため結果的には同じであると考え勝ちなのだが、しかし、これらには大きな違いがある。

 金利を上げると、銀行は金利差額を上げることができ、利益を増やす事になる。しかし、マイナス金利では、金利差益は低いままであり、銀行の財務状態が不安定となる。”

 このワーナー氏の説明を頭に入れておくと、先の経済学者の次のような説明は分かり易いかも知れない。

 “欧州中央銀行はユーロ圏内の「良い銀行(何千もの小規模地方銀行、特にドイツの銀行)を潰しにかかっている。

地方銀行(例SPARKASSENVOLKSBANKなど)は利益を追求するのではなく、むしろ協同組合又は公共の利益の為に運営されている

 欧州中央銀行やEUはこのような地方銀行に対し、規制に対する報告の義務を強いることにより、銀行の人件費を増大させた。その結果、多くの地方銀行が支店を閉鎖、合併を強いられた。

 同時に欧州中央銀行は利回り曲線をフラット(短期金利を下げ、長期金利も金融緩和で下げる)にさせた。

 その結果、従来の銀行業務(企業などの投資など)を行って来た銀行は大きな圧力を受けることになった。このような金融緩和策は、投機や投資を主な銀行業務としている大手に利益をもたらした。

 マイナス金利の政策は、先進国の小規模な地方銀行を潰し、合併させ、銀行の集積、管理を強化するためのアジェンダの一環なのである。又、現金を廃止するための偽りの口実となっている。”

 

 要するに銀行には二種類ある。企業を育てる銀行と、企業を収奪の対象としている銀行と、いうことであろう。

 ヨーロッパでは今、前者の良心的な銀行が、後者-それはいわゆるハゲタカファンドと言われるものであり、そしてその主役がイングランド銀行である-によって潰されようとしている。ということのようだ。

 言われてみればなるほどそういうことなのか、納得できることなのだが、日本の新聞や雑誌を何年読んでもそんなことは教えてもらえないのだ。

 又、先の経済学者は更に次のように言う。

 “最近、イングランド銀行は、マネーサプライは銀行の融資活動や通貨改革を後押しすることで生じるということに気づいたようだ。

 他の銀行の銀行信用をなくすことでイングランド銀行のみが生き残ると、イングランド銀行の権限がさらに増大し、銀行システムの集積が加速する。。

つまり、暴利をむさぼる人々によって利潤追求企業として1694年に創設されたイングランド銀行が再び銀行独裁権力を再開するということだ。

それだけではなく、現金、銀行信用をなくせば、イングランド銀行がお金の創出、配分、送金を独占でき、人々の管理、監視体制を強化できる。

 フィナンシャル・タイムズ紙の昨年の論説でも、結局、キャッシュレス社会で勝利するのは中央銀行なのである。

中央銀行は世界的な金融危機が始まると同時に電子マネーを導入することに高い関心を持っている。”  

 更にドイツでもキャッシュレス社会への方向付けがなされているようだ。

 もちろん、それは“イルミナティ支配下のドイツで”ということであって、仮にイルミナティ勢力の支配力が低下すると、という事にでもならば多分そうはならないであろう。

“2日前に、ブルームバーグの論説で、紙幣や硬貨は不潔、危険、コスト高であるとし、これからはキャッシュレス社会にするよう要請していた。ブルームバーグが現金を使うのは時代遅れであると言っているように、世界の支配層は、将来的には世界中の現金を消滅させたいと考えている。

ドイツではメルケル政権の連立与党(社会民主党)が、ユーロ圏での現金送金の上限を5000ユーロまでとし、500ユーロ紙幣をなくすことを提案した。

ドイツ政府は、現金送金の上限を設定する理由としてテロリストへの送金や外国人犯罪者によるマネーロンダリングなどの犯罪を防止するためと説明しているが、それは単なるスケープゴートなのである。

テロやマネーロンダリングは国境を挟んだ犯罪であるためユーロ圏全体でドイツが提案する政策が実施されるべきだが、ユーロ圏全体が無理でもドイツは現金送金の上限を設定したいとドイツ政府関係者が言っている。

現金の使用を禁止するということは、人々の経済的自主権を奪うということである。

中央銀行は、今のところ、一定の限度までしか金利は下げられない。

もし銀行が一般の預金者に対してマイナス金利を導入したなら、預金者は口座から預金を引き出してしまう。その結果、銀行はさらなるマイナス金利に設定せざるを得なくなる。すると、これまで以上に多くの預金者が預金を引き出すことになる。

しかし現金の使用を禁止した場合は、このような問題は解決する。キャッシュレス社会では政府がデジタル・マネーを管理することになるため、金利の下限がなくなる。だから、経済が好ましくない状況になると、マイナス金利を限度なく設定することができるようになる。

そして、現金が使えない社会では、口座から現金を引き出すことができないため、消費者は預金を使ってデジタルマネーで消費をするか、預金が目減りすることになる。

もちろん、現金送金の上限を5000ユーロにしても、ヨーロッパにおけるキャッシュレス社会の実現まではまだまだ長い道のりがあるだろう。

キャッシュレス社会の経済は、一部のエコノミストの決定に左右され、人々のお金が管理され、自由な経済活動ができなくなる。

デジタル・マネーを利用するようになったからといってマネーロンダリングなどの犯罪を抑制することなどできない。”

 現代の経済学がキャッシュレス社会をどう捉えているのかは私にはわからない。

 当然、何らかの見解がある筈だが、私たちは新聞や雑誌ではそれを知ることは出来ない。

 ブルームバーグが言っているようにキャッシュは不潔だと感じるような人たち、あるいは、自分は不正なカネのやりとりをしない公明正大な人間だと思っている人たちが、電子マネーによるキャッシュレス社会に同意するかも知れない。

 私たちの生活の中で1円単位までカネの動きが管理される、ということは完全な監視社会、正にジョージ・オーウェル的社会だ。

 それは経済的な問題である以前に、私たちにとって最も基本的な自由の問題だという事が認識されなければならないだろう。

 EUというシステムが国民国家の主権を奪うものである事、そして最終的には国民一人一人の経済的自決権を奪うことを目的としているということを理解すべきであろう。

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