サタディレヴュー #246 5. 3’14
シオニストを支える人たち
シオニストイスラエルに対して、アメリカはまるで奴隷であるかのように、喩々諾々として支え続けている。
世界中はあきれ返って、彼らに対して何も言えなくなっているのだが、考えてみれば奇妙な話だ。
アメリカにはユダヤ人が多いからな、と考える人は居るかも知れないが、正統派ユダヤ教徒の多くはシオニストに対して、批判的なのだ。
アメリカに於ける、シオニストイスラエルに対しての支持基盤はキリスト教原理主義者だ、とコールマン博士は言う。
専門家の分析では、アメリカのキリスト教原理主義からの(シオニストイスラエルに対する)支持が揺らぐ事はないという事だ。理由は、彼らは指導者から、キリストが地上に再臨するまでに「イスラエルが完全なものになる」ことが必要だと教えられているからだ。
正統派ユダヤ教徒はアラブ人及びパレスチナ人の土地を不当に奪う事に全面的に反対しているのだが、フォールウェル、ロバートソン、リンゼイ、クロウチ、ヴァンインプ、ハンバートといった、キリスト教原理主義の指導者は、それには全く目もくれない。ネトゥレイ・カルタのような正統派ユダヤ教徒組織はシャロンを厳しく攻撃し、現代のイスラエル国家はユダヤの災厄だと明確に表明しているのに、まるで、正統派ユダヤ教徒など全く存在していないかのようだ。
パレスチナのキリスト教徒も現在の状況には激しく反対しているのだが、そちらにも全く注意は向けられていない。
シャロンとペギンの二人はキリスト教原理主義者の希望と信仰を利用しようと研究を重ね、英国国教会(=フリーメイソンのフロント組織)のジョン・ネルソン・ダービー{イギリスの宗教家『ダービー訳聖書』で著名、信仰革新運動を展開し、アメリカのキリスト教原理主義の原典となった}の教えに力を注いだ。ダービーがアメリカで教えたものは「神の摂理としてのプレ・ミレニアム思想」というある種のグノーシス思想と言えるものだった。その内容は、紀元70年に崩壊したイスラエルは、現代に蘇ることで、ふたたび、かって聖書に記されたような重要な地位に就き、それがキリスト再臨と新たな千年王国到来の印になる、というものだった。
ー 中略 -
ダービーの“宗教”はイスラエルを支援して、最終的にかつての地位を再現することが出来れば、それがメギドの平野での最後の戦いへと繋がるというものだ。
最後の戦いとはつまり「アルマゲドン」のことで、その戦いには世界の主要大国の全てが参加する。そのあとは、壊滅的な飢饉と疫病に襲われるが、キリスト教徒はそれを「終わりの時の印」として、そして間違いなくキリストの再臨が近いことの印として歓迎すべきである、というのである。
しかし、献身的なキリスト教徒は、この苦難の時を恐れる必要はない。あらゆる民族を襲う恐るべき出来事もかれらには訪れない。なぜなら彼らは「恍惚として」救い上げられて、イエス・キリストに出会うからである。―――
キリスト教原理主義者の信仰を要約すればこのようになるのだが、この信仰を集中的に研究したシャロンとその支援者たちは、「イスラエルの子」と装ってキリスト教原理主義者を操れば、容易に西岸地区とガザ地区の占領への支持が得られることに気がついた。
だが実際のシオニスト、特にパレスチナの指導者たちは、ほぼ全員が無神論者だ。それは正統派ユダヤ教徒、特にネトゥレイ・カルタのラビたちが繰り返し強調している通りである。 正統派ユダヤ教徒の精神的指導者であるラビ、ブラウが教えるように救世主が再臨するまではイスラエルの国を建設する事はできない。したがってシャロンやシオニスト指導者がしていることはトーラーの教えに全く反している。
- 中略 -
聖書学や聖書歴史学で評価を受けている権威者で、1948年の現代国家イスラエル建国が聖書の予言の実現であると言うキリスト教原理主義者の主張を支持する者はまず一人もいない。しかし問題はリンゼイ、フォールウェル、ロバートソンなどを信じる4300万人のキリスト教原理主義者が、それを知らないということだ。だから彼らは簡単に操られ、途方もない政治圧力団体になっていく。議会で少しでも、イスラエルに批判的な法案が審議されようものなら、彼らは躊躇なく殺到して来る。ぺギンがアメリカユダヤ以上に価値があると言うのもうなづける話だ。「石油の戦争とパレスチナの闇」(成甲書房)
要するに無神論者の詐欺師にいいように操られている4300万人の無知な大衆がアメリカの政治を動かしている、ということだ。
かって、「中東に民主主義を輸出する」と言ったアメリカの大統領(名前は忘れたが)が居たが、これがアメリカの民主主義の実態なのだ。
現在のイスラエルが、いかに歴史的に根拠のないものであるかについて、説明を続けよう。
パレスチナを語る上でのポイントは古代パレスチナにはユダヤそのものが存在しなかったということである。
パレスチナにユダヤがやって来るのは歴史上ずっと後のことであり、そのときも人口構成上はほんの小さな存在で、パレスチナがユダヤの「郷土」であるという主張を正当化出来るほどのものではなかった。
また、混同されやすいが、現代のシオニスト運動は主に非正統派ユダヤ教徒によるものだ。彼らはハザール地方を源流とするインド=トルコ系の民族であり、パレスチナとは何のつながりもない。現在のロシアの黒海からカスピ海にかけて分布し、八世紀にブラン国王がユダヤ教を採用して改宗したのである。ユダヤ学者で、作家のアーサー・ケストラーによれば、ヨーロッパ及びアメリカ合衆国に住むユダヤの90%はハザール系であって、聖書に記されたヘブライの民ではない。イスラエル国家はパレスチナとは縁もゆかりもないハザールユダヤが殆どであり正統派ユダヤ運動はこれを承認していない。もちろんヘルツェルもワイズマンもパレスチナ人ではなく、ハザール系の無神論シオニストである。
彼らが不当なパルフォア宣言を利用し、それを国際連盟の文書にもぐりこませて、委任統治権をあたえたことは、先に述べた通りである。(同書)
いくつかの証拠が示すように東ヨーロッパおよびロシアのユダヤはその大半がハザール系であることに間違いはない。従って論理的に言えばヨーロッパユダヤの先祖はパレスチナやヨルダン地方からではなく、黒海とカスピ海の間、及びヴォルガ川沿いの地域からやってきたことになる。故にヨーロッパならびにアメリカにいる現代のユダヤ人口は大半がカナン人ではないこと、すなわちパレスチナにルーツをもっていないことが証明される。むしろ現代のユダヤはハザール系であるとする『ブリタニカ国際大百科事典』はほぼ正しいのである。
残念ながら『ブリタニカ国際大百科事典』のその版は、研究者がそれを利用して、ヨーロッパユダヤ、アメリカユダヤの大半がアブラハムやイザクやヤコブの種だという主張の正当性に疑問を唱え始めた途端、手に入らなくなってしまった。
かれらの祖先はヨルダン地方ではなくヴォルガ川沿岸から、カナンではなくコーカサス地方からやって来たことになる。コーカサスといえばかってはアーリア人発祥の地と考えられていた所であり、遺伝的に言えばハザール人はアブラハム、イサク、ヤコブよりもフン族、ウィグル族、マジャール族に近いのである。
これが事実とすれば、「反セム主義」という言葉は誤解に基づいた無意味なものになる。
ハザール帝国の物語はゆっくりとではあるが、史上もっとも残酷なでっち上げではないかと思えて来るのである。
先々月に都内各地の図書館で「アンネの日記」が破られる、という事件があった。
それはいわゆる“ユダヤ人差別”の問題についての真実を考えるいい機会だったのだが、実際はそうはならなかった。
メディアの反応の全てが、シオニストが、世界の人たちに、ユダヤ差別について、“そう思わせようとしている範囲”を一歩も出るものはなかったーもちろん私はそれに関する全ての記事を目にした訳ではないがーように思われる。
4月30日の新聞(東京新聞夕刊)によると「アンネの日記」破損事件を受け、シンポジウム「哲学熟読アンネの日記と戦後倫理」が5月5日文京区の東大キャンバスで開かれるという。
そんな所へ行ってみようという気は全くないが、恐らく戦後数十年多くの人びとによって語られてきたのと同じ空疎な言葉が垂れ流されるのであろう。
日本のアカデミズムの人たちが、シオニストの主張に対して疑問を抱くようになることは永遠にないのだろうか。