2023427
執筆者 斉藤 晟 は 2022年 11月5日 逝去いたしました。 今後故人の残した文章を出来る限り掲載していきたいと思います。よろしくお願いいたします。
 
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サタディレヴューは個人編集の評論紙です。

 新聞や雑誌を読んでも、様々な立場の人たちが、それぞれもっともらしいことを言っているということが解るだけで、その中で誰の言っていることが正しいのかを見極めることは大変難しいことです。

 そんな状況の中で、それぞれの問題に関して、基本的な筋道を、明確にして行きたいということが、当レヴューの目的です。

 大新聞の社説はただ“当たり障りのない”ことが書かれているだけで、読んでも読まなくてもどうでもいいようなものですが、当レヴューは多少の当たり障りがあっても、単刀直入に、問題の核心を提示します。ご一読下さい

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    音楽が時間の芸術であるということの意味

                          5.28.’02

 先頃亡くなった指揮者朝比奈隆の追悼文の中で、ある評論家が彼の音楽を“聳え立つ古城の様な存在感、重量感”のあるものとして賛辞を送っている。

絵画や彫刻などの空間芸術では表現し難い“束の間の感興”とか“恋人や我が子を想う情”とかの、つまり移ろい行くものを的確に表現出来ることが“パフォーミングアート”としての音楽の魅力の、重要な要素だと考えるものにとって、“聳え立つ古城のような”という形容は、プラス評価の材料になり得るとは思えないのだが、そうは考えない人も居るということであろう。

“聳え立つ古城のような”という形容を受け入れることのできる音楽とは一体どんな種類のものなのであろうか。“クラシック音楽”以外のもの、例えばジャズ、ポップス、シャンソン、タンゴなど、全て“否”であろう。クラシック音楽の中でもイタリア音楽の全て、フランス音楽の全ては“否”。ドイツ、オーストリア音楽の中でも、ハイドン、モーツアルトはもちろん“否”、シューベルト、マーラーも“否”であろう。

それを受け入れることのできる音楽とは、結局、ベートーヴェン、ブラームス、ブルックナーのごく僅かな部分だということになろうか。

それでも、ベートーヴェンの“第一、第二、第五、田園、第七、第八、ブラームスの第二、第三などの作品は”聳え立つ古城のような“という表現を受け入れる余地があるとは到底思われない。

では、“聳え立つ古城のような”という極めて反音楽的な言葉が、修辞として成り立つ背景とは一体何なんだろうか。

私にはそれは現代のオーディオ的な条件から来ているとしか考えようがない。仮に朝比奈の音楽を聴くにしても、実演でしか聴いていなければ、いかに朝比奈の音楽であっても、そのような比喩はでてこないはずなのだ。

つまり朝比奈の、そしてその他のいわゆる“ドイツ風”といわれる演奏のCDを高級オーディオ装置で聴いてきた事によって出てきた認識なのだ。

CDの基本的な特徴は“時間の流れがない”と言うことである。そこでは“時”は完全に意味を失い、音楽はあたかも空間に固定される一種の構築物であるかのような印象を、聴く者にあたえることになる。“聳え立つ古城のような”と言う言葉が最上級の賛辞であるということは一面、時間の流れにつれて移ろい行くものを感じ取っていない、(つまりCDはそれを与えて呉れないのだから)と言うことを正直に告白しているようにも思われるから、それはある意味では“正しい反応”なのだと言えるかもしれない。

CDを聴いている人達は、特にある種の“知的な”人たちは、無意識のうちにCDが与えてくれないものの価値を矮小化し、価値の重心をCDが与えてくれる物の方にシフトしたがっているように思われる。逆に言えばそうすることがCDとつきあう唯一の方法だと言うことであろう。       

このような、音楽に対して不誠実で無意味な御都合主義が、どこまで一般大衆のレベルまで浸透していくのか、私には大変興味のあることである。


 

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